琴ヶ浜と「琴姫伝説」
むかし、源平の戦いで平家が壇の浦に敗れた春のこと。ただひとり小舟に身を託して逃げのびた美しい姫が琴を抱いて気を失っていました。やっと石見の海岸に流れついて、村人たちの手厚い介抱に元気を取りもどした姫は、毎日琴を奏でては、村人たちの心を慰めていました。
ところがある日突然この世を去ってしまいました。 敬愛していた姫の死に村人たちは嘆き悲しみ、浜の見える丘に姫をねんごろに葬りました。すると次の日からあたかも琴を奏でるような、美しい音色で浜が鳴り始めました。
これは、きっと姫の魂がこの浜にとどまって村人たちを励ましてくれているのでは‥‥ 馬路の人びとの優しさを象徴する言い伝えとなり、この浜を「琴ヶ浜」・姫を「琴姫さん」と呼ぶようになりました。
琴ヶ浜のほぼ中央にある「琴姫の碑」
ずっと、ずっと昔のむかしのことだったんじゃそうな、大風が吹いたあくる日ことだったんじゃそうな。
大風が吹いたあくる日、この海岸に一そうの小舟が流れついたんだと。村の人たちがのぞいてみると、船の中にお姫さまが、死んだようになってたおれていたんじゃと。でものう、琴を大事そうに抱えておったんじゃけん「こら,どこかの国のお姫さまじゃろう」と、大事に介抱してあげたんじゃと。そしたら、大分してから気がついて、水やお茶が飲めるようになったんじゃげな。少しずつ話しが聞けるようになって、訳を聞いてみると「都で,大きな戦いがあり負け戦となって、命からがら船で逃げる時、嵐にあって流された。殿さまや家来や付き添いの者の船は、ほとんど波にのまれてしまったようだ。」ということなんじゃげな。
村人たちは、よけい可哀そうになり親切にしてやったんじゃげな。
ある晩のことだったげな、今まで聞いたことのない琴の音が聞えたんじゃそうな。村人たちは、知らず知らずのうちに、琴の音の方に集まったんじゃと。
「なんと、ふしぎな音がするもんじゃてのう。」
「そうようのう。今まで聞いたことのある音よりも、一段ときれいだのう。」
誰も、誰も、感心して集まっているうちに、海辺の小高い丘に来たんじゃげな。そこには、あのお姫さまが、一生懸命で琴を弾いていたんじゃげな。それがのう、その晩だけでなく毎晩のように聞えてくるじゃけん、村の人たちは喜んで聞いておったじゃけな。
ところがのう悪いこともあるもんで、そのお姫さまは、ひょっとした風邪がもとで、とうとう寝込んでしまったんじゃげな。村人たちは心配してのう、介抱したり、食べ物を食べさせたりで、一生懸命やったんじゃが、やっぱり駄目じゃったげな。
死ぬときにのう、「みなさん、ありがとうございました。」
と,一言いったんじゃそうだが、みな、もうないてしまってのう。
枕元には,あの琴がおいてあったじゃげなが、お姫さまが死んでしまわれてはのう、寂しそうなものよ。
何日かして,村の人たちは丁寧に葬ってあげたんじゃと。あの、いつものお姫さまが琴を弾かれる丘にのう。お姫さまの名前は誰も知らんだったが、琴を弾かれるお姫さまということで「琴姫さん」と呼んでいたんじゃそうな。
それで、お姫さまが着かれた浜を「琴が浜」といったので、今でもこの辺の人は、そう呼んでいるのじゃと。